Wednesdays Webinars Season 3-3

ケープ・ホワイト・ブレンド

 

現地と日本をオンラインで繋ぎ、南アフリカのワイン情報をお届けする「Wednesdays Webinars」シーズン3。3回目のテーマは「ケープ・ホワイト・ブレンド」。造り手の哲学が如実に表れる南アフリカならではのユニークなワインに焦点を当てました。

モデレーターは、 WOSA Japanプロジェクトマネジャーの高橋 佳子DipWSET。ゲストテイスターに銀座ロオジエ・ソムリエで日本の若手トップソムリエである井黒 卓氏。

そして現地よりゲスト生産者として迎えたのは、「Sijnn(サイン)」ワインメーカー、David Trafford(デヴィッド・トラフォード)氏と「Thorne & Daughters(ソーン&ドーターズ)」ワインメーカー、John Seccombe(ジョン・セコンブ)氏。異なるアプローチで素晴らしいケープ・ホワイト・ブレンドを造るお二人にお話を伺いました。

 

  • ケープ・ホワイト・ブレンドの魅力

 

「ケープ・ホワイト・ブレンド」はワインカテゴリーのひとつの呼称。シュナン・ブランを主体としたブレンドというだけで、使用品種や割合に法的ルールがあるわけではありません。ピノタージュ主体の「ケープ・レッド・ブレンド」の場合は、ピノタージュを30-70%使用するという任意のルールがありますが、白の場合は全くの自由。幅広い品種が使われます。
つまり、どの品種をどの割合で使用するかによって、ワインのスタイルや味わい、品質に多様性が生まれるのです。自由度が高くクリエイティブなケープ・ホワイト・ブレンドは、造り手の哲学が際立つ、きわめてユニークな白ワイン。世界のワインマーケットではすでにトレンドになっており、「南アフリカへ実際に訪れてケープ・ブレンドへの見方が180度変わった」という井黒氏も、「これから日本でもトレンドになることは間違いない」とコメント。

 

  • ブレンド×無名の産地、二つのハードル

一方で、ブレンドワインの大きな課題が、ずばりわかりにくいこと。生産者ごとにスタイルが大きく異なるため、例えばニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランのようには味わいを簡単に想像できません。
そんなブレンドワインを無名の産地マルハスで造る決断をしたのが、「サイン」ワインメーカーのデヴィッド・トラフォード氏。「ブドウ栽培の前例がない土地の可能性を見出したかった」という氏は、「消費者に伝えるには、二つもハードルがあるということになる。簡単なことではないが、それが進むべき道だと確信した」と振り返ります。

 

・マルハスのテロワール

 

ケープタウンから約250km、海から約15kmの場所に位置するマルハス。年間降雨量約350mmと少なく乾燥していて、風がとても強い。周囲80kmには「サイン」のブドウ畑しかない最果てともいえる地をデヴィット&リタ・トラフォード夫妻が2004年に開拓し、ブドウ木を植樹しました。

マルハスの特徴ともいえるのが、シャトー・ヌフ・デュ・パプ(CNP)のように、大きな丸石がゴロゴロ転がる石と砂利ばかりのボッケフェルト頁岩土壌。保水力が低く、ブドウ樹が根を張るまでの初めの数年は、補助的な灌漑なしでは栽培は不可能というほどで、1haあたり3tという極めて低収量です。
「チャレンジングではあるが、ユニークで特別なワインを造るには、非常に興味深い土地」と話すトラフォード氏は、他のどの産地にもない個性をもったワイン造りを目指しています。

 

・ブドウ品種の選択

「サイン」のブレンドのメインにシュナン・ブランを据えたのは、南アフリカでの適合性、風に強いといった気候条件との相性に加え、シュナン・ブラン自体の国際的知名度がプレミアムワインカテゴリーで高まってきた点など様々な理由があります。特に、「オールド・ヴァイン・プロジェクトへの注目も高まっているが、より質の高いクローンや苗木から育つ若木のポテンシャルには目を見張るものがある」と、そのポテンシャルの高さを指摘します。

シュナン・ブランを補完する品種として浮かんだのが、アロマティックなヴィオニエ。そして酸とテクスチャーがあり、シュナン&ヴィオニエとの相性も申し分ないルーサンヌ。どちらも南ローヌの品種ですが、CNPをコピーするつもりはなく、専門家に200種以上の土壌分析を行い、気候条件と照らし合わせて最適なブドウ品種を検討した結果。
 その他ポルトガルの品種で酸が高いヴェルデーリョや少量のマルサンヌ、ヴェルメンティーノも試験的に植えているほか、ギリシャの固有品種アシルティコにも期待を寄せています。

 

  • なぜブレンドするのか

「ブレンドすることでヴィンテージの個性が表現できる」と話すトラフォード氏。「異なるブドウ品種を栽培すると、成熟のタイミングや収量など品種ごとの出来にバリエーションが生まれる。サイン・ホワイトでは基本的にすべての樽をブレンドすることで、ヴィンテージの特徴が表現されたワインになる」といいます。また、「ブレンドの面白い点は、最下位レベルから、最高位レベルまで、それぞれの価格帯において最大限のパフォーマンスのワインを造ることが可能」とも。

一方、「ソーン&ドーターズ」ワインメーカー、ジョン・セコンブ氏は、「ブレンドは、南アフリカならではの個性を持った高品質なワインを造るための一つのアプローチ」と捉えています。フランスやオーストラリアなど世界各地のワイン産地で経験を積んだセコンブ氏。「南アフリカの個性とは何か」を考えた結果、「ほかの産地では造れないワインを南アフリカで造りたい」と強く思うようになったそう。

 

  • ブレンドする際のこだわり

自社畑を持たないソーン&ドーターズは、ワイナリーがあるボット・リヴァーの契約栽培農家のブドウや、ウエスタン・ケープ州の各地から高品質なブドウを集め、自身のワインを造っています。様々な畑の区画や品種をブレンドするセコンブ氏は、南アフリカならではの個性を表現するワイン造りのために、強いこだわりを持ちます。
 栽培面に関しては、「自分のワイン造りのアプローチは、ある程度収穫時に決まる」と考えていることから、時間をかけてでも畑に通いつめ、サンプリングを重ねて収穫のタイミングを見極めます。

最終的なブレンドを決定するまでの3,4カ月は、各ワインのテイスティングの日々。ブレンド工程では、各ワインが持つアロマの特徴は、ブレンドすると不安定なものになってしまう傾向があるため、個々のアロマよりも口中でのテクスチャーやウェイト、酸味のバランスを重視します。
ブレンドの基本構成はルーサンヌとセミヨン主体に、補助品種としてシュナン、シャルドネ、クレレットを使用。造りたいワインのスタイルやブドウの供給量とのバランスを考えた結果だといいます。


ソーン&ドーターズのもう一つの特徴が、樹齢35年以上のオールド・ヴァインも使用すること。オールド・ヴァイン・プロジェクトのメンバーでもあり、古木の保護や将来に向けての植樹についても意欲的に取組んでいます。一方、「古ければいいというものでもない」という認識も業界では広まってきており、「古いだけで品質が良くない畑と、適切な場所でウィルスフリーのクリーンな苗から育っている若木の畑なら、若木でも良質な素材の方が将来性が高いと考えるのは当然のこと」とも。そのため、オールド・ヴァイン・プロジェクトでは、古いブドウ樹の遺伝子を残しながら、ウィルスフリー処理をした苗の栽培を推進しています。

 

【試飲アイテム】

  • サイン ホワイト 2016
    (輸入元:モトックス)
    ¥3,400(税抜き)

 

トラフォード氏「2016年は暑くて乾燥した年。例年よりも少し酸が低かったので、10%ほど果皮も発酵に取り入れて、タンニンを抽出した。リッチでテクスチャーのあるワインになった」

井黒氏「かなり黄色味がかったイエロー・ゴールド。香りは熟した黄色い果実、マルメロ、日本の枇杷に、強い蜜蝋のニュアンス。ホワイトマッシュルーム、ターメリックやクミンなどオリエンタルスパイスの香りもあり、複雑です。

味わいはボリュームがあり、しなやかなテクスチャーでまろやか。色味から想像できるように、非常にリッチ。2016年は暑い年だったこともあり、酸味は穏やかですが、キーポイントになっているのが苦味。膨らみがありつつ、最後にぎゅっと苦味で引き締まり、このタンニンが長期熟成のポテンシャルを与えていると思いました。素晴らしいワイン。皆さんに試してほしいです」

 

  • ソーン&ドーターズ ロッキング・ホース ケープ・ホワイト 2018
    (輸入元:ラフィネ)
    ¥4,500(税抜き)

 

井黒氏「香りはすごくデリケートで抑制が効き、穏やか。はじめはグレープフルーツの皮や金柑、潮風の香り。しっかり香りをとっていくと実はフレーバーの凝縮度がすごく高いことがわかります。よく熟した黄色い果実、ワックス、潮風、牡蠣殻のニュアンスもあり、複雑です。

パレットは、ビシッと引き締まった味わいで、1番目のワインと比べるとより直線的。クリーミーなテクスチャーと旨味があり、充実した味わいです。中心には引き締まった酸が核をなし、アフターフレーバーもよく伸びます。ほかの産地にはない、南アフリカの特徴がよく出ていると思います」

 

  • フードペアリング

興味深いのが、料理との合わせ方。セコンブ氏に相性のよい料理を聞くと、「日本料理にはよく合うと思う」との答え。ニューワールドらしい果実味はありながらテクスチャーがあるので、日本料理や北欧料理など、素材を生かした繊細な味付けの料理と相性が良いとのこと。

さらに井黒氏は、ガストロノミーとの相性の良さを指摘します。「ケープブレンドは一言でいうと複雑なワイン。最近の料理も、様々な素材を組み合わせたり温度帯を工夫したり、非常に構成が複雑。料理の多層的な味わいを受け止めるには、複雑なワインを合わせるのが良いと思います。『世界のベストレストラン』『アジアのベストレストラン』を目指すようなトレンドに乗っているガストロノミックなお店で使っていたら、かっこいいですよね」とコメント。

 

 

今回テイスティングした2種類のワインだけでも方向性が全く異なり、その可能性に驚かされました。南アフリカの個性を感じる自由でエキサイティングなケープ・ホワイト・ブレンド。ぜひ注目してみてください!

<Aya Mizukami>


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