Wednesdays Webinars Season 3-2

サンソー&グルナッシュ

 

現地と日本をオンラインで繋ぎ、南アフリカのワイン情報をお届けする「Wednesdays Webinars」シーズン3。2回目のテーマは南アフリカで今、大注目の「サンソーとグルナッシュ」。高いポテンシャルを持ちながらも過小評価されがちなグルナッシュとサンソーの魅力に迫りました。

モデレーターは、 WOSA Japanプロジェクトマネジャーの高橋 佳子DipWSET。ゲストテイスターに銀座ロオジエ・ソムリエで日本の若手トップソムリエである井黒 卓氏。そして現地生産者としてサンソーに特化したワインを造るナット・ファレーのアレックス・ミルナー氏、南アフリカ屈指の若手生産者デヴィッド&ナディアのデヴィッド・サディー氏へのインタビューを交え、ライブ配信を行いました。

 

  • サンソー

もとは南仏・ラングドック地方原産の品種で、1850年代に南アフリカへ伝わったとされます。赤、ロゼ、酒精強化ワインやブランデーと幅広い汎用性と収量をあげられるため、1970年代には南アフリカのブドウ栽培面積の1/3を占めるまでに。1990年代以降、国際的に評価が高いCSなどの品種に改植され栽培面積は減りましたが、最近になって再注目されている品種です。その背景には、南アフリカでの樹齢の高い畑への取り組み「Old Vine Project」への関心の高まりにより、サンソーの古い畑に注目しワインを造る生産者が増えていることもあります。

ちなみにサンソーはCinsaut/ Cinsaultと二通りで綴ることがありますが、ミススペルではなく、南アフリカの新しいスタイルのワインには、”Cinsaut”が使われることが多いよう。

 

・サンソーの可能性

南アフリカでは「誰も欲しがらない安ブドウ」と軽視されていたサンソー。ナット・ファレーのアレックス・ミルナー氏は、「誰も手をつけていないワクワク感」がこの品種に惹かれた理由だといいます。インターン先の南仏でサンソーを扱う経験をしたものの、帰国すると国際品種ばかり扱う日々を正直退屈に感じていたアレックスさん。そんなとき、隣の畑で収穫したサンソーをたまたま仕込む機会があり、出来たワインがとても面白い仕上がりだったことが、サンソーに特化するきっかけに。
「今では多くのワインメーカーがサンソーを扱うようになりましたが、自分達にとっては、サンソーを不毛な時期から扱ってきたという自負はあるし、経験値もあると思っています。 消費者がそうした背景を少しでも理解して、サンソーを手に取ってもらえたら嬉しい」。

 

(ナット・ファレーのアレックス・ミルナー氏)

 

・サンソーの産地の違い

ダーリン、スワートランド、ステレンボッシュ、ボッテラレイなど、幅広い地域で栽培されるサンソー。アレックスさんが2014年に各地のサンソーを集めて仕込み分けをした結果、それぞれに違った個性があり、特にステレンボッシュとスワートランドでは明らかに違いが。「ステレンボッシュのサンソーは、シナモンをかけたイチゴのようなスパイスと赤い風味を感じやすく、より温暖なスワートランドでは、チェリーや赤いフルーツなどが前面に出てきます。スワートランドのサンソーは、例えるならグルナッシュに似た印象。一方、ステレンボッシュのサンソーは、よりピノ・ノワールに近いと思う」と違いを解説。

 

・サンソーの古木とクローン

南アフリカの土地で長年生き延びてきた歴史があり、古木も比較的多く残るサンソー。クローンにも時代ごとの違いが見られます。196070年代は高い収量が得られるクローンが選抜されていましたが、近年のクローンは、品質を重視したものになり、自然と房や粒が小さくなるそう。
「自然と収量管理が働く古木からは品質の良いものができるが、樹齢の若い新しいクローンの畑からも驚くほど良いワインができる」とのこと。「ワインメーカーとして次の
5年が楽しみ。干ばつがなければ、非常にエキサイティングなワインを造れるようになるはず」と語ってくれました。

 

  • グルナッシュ

スペインを中心に、南仏、コルシカ、サルデーニャ島、オーストラリアなどで広く栽培されるグルナッシュ。晩熟品種で、暑く乾燥した気候を好み、風や日照にも強い品種です。果皮が薄いため、淡い色調・タンニンは控えめで、高アルコールのワインになりやすいのが特徴。南アフリカでの起源は不明ですが、少なくとも1700年代後期にはピケニールスクルーフでグルナッシュの栽培が始まっていたとされます。

ちなみにピノタージュを交配したぺロール教授がグルナッシュ=ガルナッチャと認めたのは、1904年。スティーン(=シュナンブラン)同様、2つは別の品種とされていました。

色の濃いワインにならないため一時は絶滅危機くらいまで栽培面積が減少したグルナッシュ。今、再注目され1999年から2016年で栽培面積が42haから340haへと増えてはいるものの、栽培面積はまだまだ少なめ。主な栽培地はスワートランドとパール。

 

デヴィッド&ナディアは、グルナッシュを中心に造る注目度No.1の若手生産者。Tim Atkin MWのSouth Africa Special Report2020で「Young Winemaker of the year 2020」に選ばれました。

 (おしどり夫婦のデヴィッド&ナディア)

 

・Old Vine Project

サンソーやグルナッシュを語るのに外せない古木の存在。ですが、特にグルナッシュの古木は、色の濃いワインにならないことから197080年代にかなりの数が引き抜かれ、現存する古木は11haと希少な存在。そのため、安定的な供給を得ることが非常に困難です。将来古木となるブドウのための新たな植樹を推進することも「Old Vine Project」の重要な取り組みです。

 

・気候変動への対応

もともとスワートランドはシラーで有名な産地。サディーをはじめ、バーデンホースト、マリヌー、ポルセレインベルグなどスター生産者の素晴らしいシラーのブレンドワインで一躍注目が集まりました。このスワートランドの躍進は、「スワートランド・レボリューション」と呼ばれています。

「シラーは自分にとって重要な品種」としつつも、スワートランドの歴史や気候変動(地中温暖化や干ばつ等)など様々な角度から考察した結果、2015年から2016年にかけてグルナッシュによりフォーカスしようと決めたと言います。

とはいえ当時は干ばつに備えた決断というわけではなく「よりエレガントでフレッシュな赤ワインを造りたい」という思いからでした。2016年のシーズンに干ばつの影響が強くなった時に、他のどの品種よりもグルナッシュが干ばつに耐性があることがわかったといいます。「各国産地の事例や、スワートランドの栽培環境を考えると、自分にとってグルナッシュが気候変動に対応できる一つの答え」とデヴィッドさんは考えています。

 

(グルナッシュの故郷とされるピケニールスクルーフ、デヴィッド&ナディアの畑があるスワートランド、そしてトゥルバッハの場所)

 

・グルナッシュにもテロワールが現れる

味わいについては、「シラーとピノの中間的なイメージ。 コート・ロティのシラーのフレッシュさと、ブルゴーニュのようなエレガントさがある」 とデヴィッドさん。「花崗岩の畑はタンニンがはっきりと感じられる。シストの畑は、果実味が前面に出てきてタンニンはタイトな印象」と、シラーと同じようにテロワールの違いがワインに現れると感じています。

そして「シラーは、市場の競争が激しい品種。1970年代から1990年代にかけて、シラーとCSが増殖。上質なグルナッシュやピノタージュの方が、競争力があると思う」とも。

今後については、「 20年後には、今より長期熟成可能なワインを造っていたい。 そのためにも、今は自分のワインの評価を高めていくことが重要」と語ってくれました。

 

【試飲アイテム】

 

  • ナット・ファレー コースタル・サンソー 2020

(輸入元:ハミングバード)
¥3,200(税別)

醸造:24時間低温浸漬後、発酵開始。発酵中はパンチングダウンによる穏やかな抽出。一部全房と果梗を含む。古樽、フードル、コンクリートタンクにて12ヶ月熟成。

 

井黒氏コメント「サワーチェリーやざくろなどフレッシュな赤い果実、スミレやポプリなどフローラルな香りに、苺キャンディなどMC(マセラシオン・カルボニック)と全房発酵由来の香りをしっかりと感じます。鉄の香りや血液っぽさが複雑性を与えています。

味わいはスムースな口当たりに噛むような質感があり、ミディアムボディでタイトな印象。キュッと引き締まるようなグリップ感があり、力強いです。

スミレのようなフローラルさや複雑味がありながら、品種個性としての荒々しさや田舎っぽさに親しみを感じ、どことなく低温浸漬した昔のブルゴーニュを彷彿とさせます。

お料理との相性は、鉄っぽさに合わせて燻したカツオや生姜、ポン酢など酸味のきいたものを加えると良いと思います」

 

  • デヴィッド&ナディア グルナッシュ 2017
    (輸入元:マスダ)
    ¥6,200(税別)

栽培・醸造:無灌漑、ビオロジック農法で栽培。30-50%全房を開放式発酵タンクの下部に入れ、その上に破砕していないブドウを重ね自然発酵、果皮浸漬は約4週間。古いフレンチオークで熟成。

 

井黒氏コメント「見ての通り色が淡く、グルナッシュの果皮が薄いのがよくわかります。香りは繊細で、ピュアで洗練された印象。すごく綺麗ですね。トップノートにはラズベリーなど赤い果実が香り、色の透明感がそのまま香りに出たような感じです。一方でスパイシーさやカカオなど、フルーツ一辺倒ではなく様々な香りが何層にも重なって押し寄せます。

特筆すべきは、超スムースな、緻密できめ細かい質感。タンニンも優しく、ここまで滑らかでピュアでクリーンなグルナッシュもなかなかないと思います。バックボーンにはしっかりと芯が感じられ、確実に食事に合うワインです。完成度高いですね」

 

不遇の時期を経て、高品質なワイン品種として輝き始めたサンソーとグルナッシュ。ブレンドワインのみならず単一品種としても評価が高まるなど、南アフリカの多様性がワインに光る品種でもあります。ぜひお気に入りの1本を探してみてください!

 

<Aya Mizukami>

※セミナーのアーカイブはこちらからご覧いただけます。