キャプランでのセミナーの翌日は、intertWine K×Mでキャシー・ヴァン・ジルMW&フィリップ・ヴァン・ジル氏によるミニセミナーが開催されました。
夕方のお忙しい時間にも関わらず、12名が参加して下さいました。
スタンディングでこじんまりと、お二人との距離も近くなごやかな雰囲気。
お二人もリラックスした表情です。

とてもフレンドリーに接して下さるお二人ですが、とんでもない経歴の持ち主。

(通訳はもちろんWOSA Japan代表・高橋佳子氏)
キャシー氏の夫、フィリップ氏は、「Platter’s Wine Guide」の編集に25年も携わっている南アフリカワインのエキスパート。

1980年にジョン&エリカ夫妻によって創刊された「プラッターズ・ワインガイド」は、南アフリカでベストセラーのワインのバイブル。各ワインの直近のVTを評価しているため、同じワインをトラッキングしながら常に情報をアップデートできるのがポイント。初版は150ワイナリーだった掲載数も、現在は1000ワイナリー超にまで増え、ますます充実度を増しています。

(初版のプラッターズの薄いこと!)
そして2005年にMWに合格したキャシー・ヴァン・ジル氏ですが、ワインにはまるきっかけは、なんと自転車だったそう。ケープタウンで有名なサイクリングツアーへ夫を誘うと、「ワインコースに一緒に参加するなら」といわれ、毎年サイクリングツアーに参加しながらワインの勉強もスタート。
キャシー氏はMWを目指し、フィリップ氏は「プラッターズ」を舞台にワイン探求の旅が始まったのです。
「MWになっても、まだ毎日何かしら学びがある」とキャシー氏。素晴らしいです!
そしてさっそくペアリング体験へ。
intertWineといえば、大橋健一MWセレクトのワイン×大越基裕ソムリエがペアリングを監修した「コンポーネント・ペアリング」が目玉。家でも再現できる料理とワインのペアリングを試せるため、ワインの楽しみもますます広がります。
今回は、2種類の南アフリカワインに合わせて大越ソムリエ監修のペアリングを体験。

まず1つ目。
■Berry’s Swartland White 2022/ The Sadie Family × 九条ネギと油揚げの酢味噌合え+柚子胡椒+柚子の皮
サディといえば、イギリスのワインマーケットにおいて南アフリカワインの価値の向上に最も貢献した造り手。プラッターズでも幾度となく、優れたワイナリー&ワインメーカーとして受賞しています。
彼が活躍するのがスワートランド。南アフリカといえばその多様な気候が特徴のひとつで、緑生い茂る冷涼なエリアから太陽照り付ける暑い産地までさまざまですが、スワートランドは赤土の殺伐とした土地。干ばつ被害もあるほど雨は少なく、日中は太陽がじりじり照り付けるものの、寒い寒い夜によって、生き生きとした酸も育まれるのです。筆者が10月(南アフリカでは春)にスワートランドに行った際には、あまりの夜間の冷え込みに鼻水と震えが止まりませんでした。
サディは、ロサ・クルーガー氏と協力して古木の価値向上にも貢献した人物でもあります。Old Vineシリーズも出していて、「優れたワインになりうる古いブドウ畑を探すことに長けたワインメーカー」とキャシー氏。
もともと畑は所有せずに買いブドウでワインを造っていたサディが、自社畑で造り始めた最初の赤ワインが、かの有名な「コルメラ」です。そして今日供されたワインは、直近で取得した、自宅すぐ近くの自社畑のブドウから作った白ワイン。見かけたことのない方も多いと思いますが、それもそのはず。イギリスの伝統あるワイン商Berry Bros. & Rudd輸出専用の特別エディションのため、プラッターズにも掲載されていません。
ワインはシュナンブラン92%、セミヨン8%のブレンドで、大きいコンクリートエッグと古樽で醸造。シンプルかつナチュラルな造りを行っています。
「白桃のような洗練された果実味。フレッシュさ、ミネラル感、酸味がありサディらしい味わい。食事との相性が非常にいいワイン」とフィリップ氏。
あとで参加者から「サディらしいとは?」と質問があったのですが、「緻密さ、洗練さ、凝縮感が全ワインにおいて総じて高い。これは特筆すべきこと」との回答でした。
ペアリングの九条ネギと油揚げの酢味噌あえは、柚子胡椒と柚子の皮がポイント。ワインに感じる心地よい苦味を伴った和柑橘の風味に、ゆずが抜群の相性。「柚子の苦味がワインと食双方を引き立てている」とキャシー氏も納得のペアリングでした。

■Syrah 2021 / Mullineux × こんぶ土居のりの佃煮+バルサミコ酢+ブラックペッパー
2番目のワインもスワートランド産、あの有名なアンドレア&クリスマリヌー夫妻のワインです。
マリヌーも、サディとともに南アフリカワインと古木の価値を高めた立役者。
もちろんプラターズ受賞者の常連です。
彼らは、土壌違いの単一畑のワインをリリースし、畑ごとの表現というアプローチをとったトレンドセッターでもあります。
今回供出されたシラーは、6つの畑のブレンドですが、そのほか土壌別にschist(頁岩)、granite(花崗岩)、iron(鉄)と3種類をリリース。毎年生産量も異なり、収穫量が少ない年は畑別のワインが生産されないことも。なぜなら、このブレンドの「マリヌー・シラー」にブドウを優先的に回しているため。それだけマリヌーにとって大切なワインなのです。

(ちなみにキャシー氏のお好みはironだそう)
醸造は90%が全房で、梗も含めることで果皮以外からの複雑な成分を引き出しています。サディ同様にマリヌーも非介入主義の造り。大きな開放発酵槽を使い、強い抽出は好まないばかりか、なんと手を使って果帽を沈めているそう!仕込み中にマリヌーを訪れると、両腕が真っ赤になっているというから驚きです。
発酵後は、500ℓの古樽で12ヵ月熟成、さらに瓶詰後9ヵ月寝かせてリリースされます。
2021年のこのシラーは、プラッターズでも95点を獲得した1本。
2021年は5年続いた干ばつの後の最初の年で、南アフリカ全土で素晴らしい年だったそうです。
その当時のプラッターズの表現をフィリップさんが紹介してくれました。
「黒系果実にすみれの花、エキゾチックフルーツやスパイスの香りがあり、骨格もしっかりしていて、熟成のポテンシャルを感じさせる」。
「確かにその通りね。このfine silky tannin(きれいな流れるようなタンニン)がなんとも魅力的だわ」とキャシー氏。
こちらに合わせた、のりの佃煮とのペアリングが、えも言われぬ相性の良さ!
ペアリングのポイントは、のりの佃煮のこもった香りとシラー特有の還元的な香りを合わせた点。さらにバルサミコ酢の酸味によるバランスの調整&ブラックペッパーの香りもシラーに共鳴します。家だとローストビーフの薄切りに、のりの佃煮と黒コショウをかけても美味しいそう。
「のりのつくだにの後に頂くと、タンニンが軽やかに感じるわね」とキャシー氏もご満悦でした。
12名の参加者の皆さん熱心に聞いて下さり、会の終了後にも質問が飛び交う白熱ぶり。
二人のサインや記念撮影タイムも盛り上がりました。

intertWine K×M店内には、南アフリカワインも充実していますので、お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。
<Aya Mizukami>