Wednesdays Webinars Season 3-4

シラー/シラーズ

 

現地と日本をオンラインで繋ぎ、南アフリカの生のワイン情報をお届けする「Wednesdays Webinars」。今シーズン最終回のテーマは「シラー/シラーズ」!

モデレーターは、おなじみ WOSA Japanプロジェクトマネジャーの高橋 佳子DipWSET。ゲストテイスターに銀座ロオジエ・ソムリエで日本の若手トップソムリエである井黒 卓氏。

そして今回のゲスト生産者として迎えたのは、「Craven(クラヴァン)」醸造家ミック・クラヴァン氏と「Reyneke(ライナカ)」オーナーのヨハン・ライナカ氏&醸造家ルディガー・グレッチェル氏。全房発酵へこだわりを持つクラヴァン、そして南アフリカのビオディナミの第一人者であるライナカ。シラーを切り口に、ワイン造りの哲学と南アフリカのテロワールについてお話を伺いました。

 

●実は世界4番目のシラー生産国

香り高くエレガントなワインからリッチで濃厚なワインまで、多様なスタイルを生むフランス原産のシラー。フランスの北ローヌやオーストラリアのバロッサ・ヴァレーが代表的な名産地ですが、南アフリカにシラーのイメージを持つ方は意外と少ないのではないでしょうか。

実は、南アフリカはフランス、オーストラリア、アルゼンチンに次いで世界第4番目のシラー生産国。1890年に「グルート・コンスタンシア」の農園で初めて栽培され、1957年には「べリンガム」が初めてヴァラエタルワインを造りました。赤ワイン用品種としてはカベルネ・ソーヴィニヨンに次ぎ2番目に広く栽培されており、現在9,151ha。1999年には全体の僅か4%でしたが、20年で10%に急増していることからも高い需要を読み取れます。

主要産地はパール、スワートランド、ステレンボッシュ。後述の通り多様なスタイルを生み出す、国際的にも人気の高い品種です。

 

・フランスやオーストラリア産シラー(ズ)との違い

大雑把な言い方かもしれないけど、と前置きしたうえで「南アフリカのシラーは、フランスとオーストラリアの中間のようなスタイル。オーストラリアのシラーの方がより果実味が強い」とクラヴァン氏。同時に「造りの違いによる影響も強い品種」とも。ステレンボッシュのなかでもアルコール12.5%のワインもあれば、15%のフルボディスタイルもあり、ワインメーカーのアプローチの違いが如実に表れるといいます。

フレンチスタイル=シラー、オーストラリアスタイル=シラーズと呼ぶのが通例ですが、「実はあまり深い意味はない。シラーというと耳障りがいいくらい」とクラヴァン氏。オーストラリアでも「シラー」としてリリースするワインも多々あるように、生産者の意図によりけりということですね。

 

  • 土壌・テロワールの違いが大きく影響

クラヴァンの畑は、ステレンボッシュの小地区デヴォン・ヴァレー、ライナカの畑があるのは同じくステレンボッシュのポルカドラーイ・ヒルズ。同じステレンボッシュといえども、テロワールの違いが全く異なる味わいのシラーを生み出します。

・デヴォン・ヴァレー

シラーは花崗岩土壌を好むといわれていますが、デヴォン・ヴァレーは花崗岩とは対照的な赤茶色の粘土質土壌。一般的にはシラーズにとって最適な土壌ではないというものの、「全く異なるタイプのシラーを造りたい」と思ったクラヴァン氏は、2015年からこの土地でシラーの生産を開始。「この畑からできる、ストラクチュアと密度のあるワインが気に入っている」といいます。
粘土と鉄分が豊富で保水力が高く、干ばつの年でも水分ストレスを軽減することはメリットの一つ。樹勢は強くなりますが、土壌温度が低いため根や果実の成長もゆっくり進むそう。少し早めの収穫をすることでアルコールは12~12.5%に抑えています。

 

・ポルカドラーイ・ヒルズ

一方、ライナカの畑があるポルカドラーイ・ヒルズは花崗岩土壌。フォルス湾へ開けた斜面の畑はシラーに向くことがわかり、続々とシラーの栽培が増えてきています。風化した花崗岩がシラーにエレガントさや緊張感を与え、スパイシーかつ華やかなアロマと充実した果実、上質なタンニンを持つ長期熟成型シラーになるといいます。
「ステレンボッシュはシラーの産地として、今とても面白い」とルディガーさん。ステレンボッシュ地区内にも多様性があるなかで、どの品種がどの場所に適しているかという土地への理解が深まっています。


・スワートランド

今回の試飲にはありませんが、南アフリカのシラーの注目産地として絶対に外せないのがスワートランド。南アフリカ最高峰のシラーとも称されるカルトワイン「ポルセレインベルク」をはじめ、スター生産者が高品質なシラーを生み出しています。土壌はシストと花崗岩。シストはリーベック山のエリアに広がり、ヴェルベットのような質感の、表現力に優れた最高峰クラスのシラーを生みだします。
ワイナリー名の由来であるポルセレインベルクの丘のあたりではシストが赤茶色から青色に変わり、よりストラクチャーのしっかりしたシラーに。パールダバーグ周辺は花崗岩で、スパイス感は控えめで華やかなアロマの柔らかいスタイルのワインになり、シストのシラーとは異なる特徴になるといいます。

 

  • 温暖化の影響も

赤はカベルネ・ソーヴィニヨンとシラーにフォーカスしているライナカ。斜面の方角と標高(100~300m)により栽培品種を選んでいます。成熟に時間がかかるカベルネは区画が限定されるため、シラーの方が栽培できる区画が多いものの、最適な区画を選ぶことでワールドクラスのワインができるといいます。

一方で無視できないのが温暖化の影響。例えば1994年に植えた北東向きシラーの区画は、以前は白胡椒の風味が際立つワインでしたが、気候が温暖かつ乾燥するにつれ、アロマが華やかでハーブや土っぽさを感じるように。胡椒の風味が強い冷涼感のあるシラーに仕上げるには、より南向きで標高が高い区画のシラーが必要になる、と変化を感じています。

 

  • 畑へのアプローチ、有機農法への取り組み

南アフリカトップクラスのビオ生産者として知られるライナカは、南アフリカで最初にビオディナミ認証を取得したワイナリーでもあります。

オーガニック、バイオダイナミック農法(以下、有機農法)が畑やワインに与える影響について伺うと、「とても良くなっている。農園全体に自然が戻ってきている」とにっこり。「I love nature」と力強く話すヨハンさんは、ブドウ畑に鳥や動物などがいることで、幸せを感じると生き生きと話します。「ワインは幸せな場所で造られるべき」「生きた土地で造られるべき」だと信じており、有機農法はそのためのアプローチだと考えています。

味わいにも如実に変化が。以前は均一だった果実の風味が、有機農法に切り替え年数を経るごとに、一つの畑のなかに多様性が見られるようになってきたそう。ブドウを育てることは、土壌を育てること。土壌の場所によって微生物の生息に変化が生まれ、その土壌の多様性が味わいに変化を生むといいます。この変化を注意深く観察し、区画毎に収穫を行うことで、同じ畑の同じ品種からでも異なる個性を持つワインが生まれるのです。

 

  • 醸造へのアプローチ、全房100%

醸造のアプローチによってスタイルが大きく変わるシラー。クラヴァン氏のこだわりは、100%全房発酵を行うこと。これは、全房発酵でワインを造る仲間からの影響も大きく、特に刺激を受けたのが、アルノー・ロバーツやパックス・マーリーといったニュー・カリフォルニアの生産者だそう。さらに100%全房発酵で造られたシラーを実際に色々と飲んだ結果、自分のシラーにとって最適なアプローチだと考え、「とにかく気に入っている」といいます。

全房発酵をすると、発酵管理がしやすいこともポイント。実や房が果梗に重なり合うので、発酵中の温度が上がりすぎることなく温度管理がしやすいといいます。味わいとしては、果梗がワインにストラクチュアを与えながらも、タンニンの抽出は抑えられスムーズな口当たりに。「シラーの強い果実味はやや控えめに、より旨味のある素朴な印象になる」と感じています。

 

【試飲アイテム】

 

  • クラヴァン シラー・ザ・ファーズ・ヴィンヤード 2018
    (輸入元:ラフィネ)
    ¥3,200(税別)

 

井黒氏「香りに全房発酵の特徴がよく出ています。アルコール12.5%という軽やかな造りもノーズから感じ取れ、煮詰まった果実の印象は一切ありません。梅やざくろなど赤い果実に、獣肉や動物の血など野性的な香り、グリーンルイボスなどハーブようなアロマ。全房由来の茎っぽさも感じますが、ネガティブな印象ではなく複雑さやスパイシー感をプラスしています。

パレットは軽やかで、酸やタンニンも優しく、なによりみずみずしいワインです。揮発酸も感じ取れますが、あくまでポジティブ。ドライフルーツやフローラル・ノートのあるハイトーンなワインで、早摘みによるフレッシュさや冷涼さも感じます。

ペアリングとしてはカツオなど赤身の魚がおすすめ。最近個人的に入り酒(日本酒に梅と鰹節を入れた調味料)にはまっているのですが、このワインには旨味がしっかりあるので、入り酒+赤身の魚の組み合わせによく合いそうです」

 

  • ライナカ バイオダイナミック・シラー 2018
    (輸入元:マスダ)
    ¥3,100(税別)

 

 

井黒氏「香りはとてもアロマティック。フローラルで甘いスパイスに胡椒のアロマもあり、果実の香り豊か。先ほどのクラヴァンは全房発酵の特徴を前面に感じたのに比べ、こちらはクリーンでよくまとまっている印象です。ピュアな果実と品種特性もしっかり出ていますし、アルコールは13%ですが、冷涼感とよく熟した雰囲気が混ざっている印象。パレットは滑らかでソフト。同時に直線的な印象もあり、陰と陽ではないが二面性のあるワインだと感じました。

テクスチュアが充実していてタンニンは溶け込み、シンプルにすごくおいしいです。中盤には味わいの核があり、バックボーンがしっかりしていて構成が明確でわかりやすい。素晴らしい凝縮感で余韻も長いです。レギュラーレンジでここまで完成されていたら、上のレンジはどうなってしまうのだろう、と期待感が沸くワインです」

 

 

ステレンボッシュ内でも異なる土壌の違いを強く感じたと話す井黒氏。テロワールや醸造のアプローチにより多様なスタイルになりうるシラーの可能性を再確認するセミナー&テイスティングとなりました。土地への理解が深まり適地適品種栽培が進むことで、さらに素晴らしいワインが生まれることは間違いない南アフリカのシラー。今後も要注目です!

<Aya Mizukami>

 

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