現地と日本をオンラインで繋ぎ、南アフリカのワイン情報をお届けする「Wednesdays Webinars」。2021年9月よりシーズン3が始まりました!初回のテーマは華やかに、南アフリカの高品質スパークリングワイン「Cap Classique」に焦点を当てました。
キャップ・クラシックは、シャンパーニュと同じ伝統的製法(瓶内二次発酵方式)で造ったスパークリングワインのこと。1971年の誕生から50年、生産者のたゆみない努力によりキャップ・クラシックの評価はますます高まっています。
モデレーターは、 WOSA Japanプロジェクトマネジャーの高橋 佳子DipWSET。ゲストテイスターに銀座ロオジエ・ソムリエで日本の若手トップソムリエである井黒 卓氏。そしてオンライン越しのゲスト生産者には、キャップ・クラシックの発展を支えてきた重鎮のお二人にご登場頂きました。
- ゲストワインメーカー
- 『シモンシッヒ』セラーマスター ヨハン・マラン氏
銘醸地ステレンボッシュの丘陵地帯にある、南アフリカを代表する醸造の名家シモンシッヒ。シャンパーニュ地方を訪問し感銘を受けたヨハン氏の父フランス・マラン氏が1971年に南アフリカで初めて伝統的製法によるスパークリングワインを造りました。ボトルはないわ機材はないわで、まさに手探り状態からのスタートだったようです。ヨハンさんは後述するキャップ・クラシック協会の初代会長です。
- 『グラハム・ベック』醸造長 ピーター・フェレイラ氏
日本でも知名度の高いグラハム・ベック。1994年、ネルソン・マンデラ氏が黒人初の大統領に就任した際、祝杯に使われたスパークリングワインとしても有名。まさに「多様性」を象徴する銘柄といえます。「泡を飲み、泡を食べ、そして泡を吸って生きているんだ」というほどスパークリングワインを愛するピーターさんは、キャップ・クラシック協会の現会長。
- MCC(Methode Cap Classique)とは
南アフリカでの「シャンパーニュ製法」の呼称。フランスとの協定で「シャンパーニュ」という呼称が使用できなくなった1992年、それに代わる用語として「MCC」の使用がスタートしました。
同年、14生産者でキャップ・クラシック協会(CCPA)を設立。初代会長のヨハンさんは、「ベースワインのテイスティングをメンバーで行うなど、情報共有し切磋琢磨したことがMCC全体の品質向上につながった」といいます。メンバーが116に増えた今でもテイスティング会は継続しており、経験値のある生産者が新規参入者をサポートする良い機会にもなっているそうです。
一方ピーターさんは、「南アフリカの美徳は、常にシャンパーニュに敬意を払い、”自分たちはシャンパーニュとは異なる”という認識を持っていたこと。だからこそ、独自のルールや概念を生み出そうとしてきた」と指摘。メンバーで協力して「南アフリカならでは」のスパークリングワイン造りを目指してきたことが、今のMCCの高い品質につながっているのです。
・使用品種について
1971年にMCCで初めて造られたシモンシッヒの「Kaapse Vonkel(カープス・フォンケル)」は、シュナン・ブラン100%。当時はシャルドネやピノ・ノワールなど国際品種は一般的ではありませんでした。
シャンパーニュの主要3品種を使用したのはヨハン氏の功績。ケープで初めてムニエの栽培も開始し、97年にブレンドに加えました。ピノ・ノワールとも異なる性質を持つ興味深い品種であるため、理解を深めるために試験的に単独で瓶詰めして熟成具合を経過観察をしているとのこと(10年経ったムニエも、まだまだフレッシュだそう!)。今後はピノ・ブランにも注目していくようです。
なお、キャップ・クラシックの使用可能品種には規定がありません。シャンパーニュの伝統品種にフォーカスするのはシモンシッヒの方針であって、シュナン・ブランやピノタージュなど伝統品種や、その他の品種からも素晴らしいワインが造られています。「ここはフランスではないのだから自由があっていい」とヨハンさん。多様性がキーワードである南アフリカでは、規定を設けないことで、多様性を表現でき、また、新規参入も推進できると考えているのです。
・最低熟成期間の変更
重要な変更点として押さえておきたいのが、瓶内で澱と接触させる最低熟成期間が9カ月から12カ月に伸びたこと(2021年6月より)。ステレンボッシュ大学や関連機関で検証を行った結果、9カ月と12カ月の違いは明白で、その効果には約2倍の違いがあったそうです。
- スパークリングワインにおけるテロワールについて
シモンシッヒはステレンボッシュ、グラハム・ベックは内陸部のロバートソンが本拠地。産地ごとの多様性が豊かな南アフリカでも、テロワールの個性を認識するようになってきました。「テロワールはとても重要。ブレンドするにしても、それぞれのテロワールのDNAを理解しなければ、最大限の表現はできない」とピーターさんは力を込めます。
内陸部のロバートソンのテロワールは「非常にユニーク」。豊富な日照量の恩恵を受けつつ、昼夜の気温差が約20度と大きいため、スパークリングワインの生産の肝である豊かな酸を保つことができます。何よりの特徴は、ケープで最も多く分布する天然の石灰岩。これがフレッシュさ、適切なpH、熟成ポテンシャルをもたらしてくれるそうです。
ヨハンさんは、「ステレンボッシュ以外にも様々な産地のブドウを使用することで、テロワールの違いに気づくことができた」とコメント。ステレンボッシュの自社畑は頁岩や花崗岩質の沖積土壌。自社畑の区画の中でも違いがあり、一部の区画は非常に強いアロマを持ち、骨格がしっかりとした、熟成ポテンシャルのあるMCC向きの個性の強いシャルドネを生むといいます。
- 輸出市場も好調
マーケットについても伺いました。キャップ・クラシックの82%が国内で消費されるものの、輸出も好調で、CCPAとしても輸出を奨励しています。輸出先としては、イギリスを筆頭にUSA、オランダ、スウェーデン、北米、ドイツと続き、日本は10位にランクイン。
一方、日本の輸入単価は高く、プレミアム嗜好が伺えるとのこと。特にグラハム・ベックにとっては日本は第5位の輸出市場で、「日本の食文化や嗜好は、スパークリングワインと親和性が高い」とピーターさんは期待を込めます。
【試飲アイテム】
MCCを代表する二つのワイナリーから最高峰のスパークリングワインが登場し、井黒氏が英語と日本語を交えて解説してくださいました。
- シモンシッヒ MCC カープス・フォンケル ブリュット 2007
– ピノ・ノワール58%、シャルドネ39%、ムニエ3%
– 複雑さを得るため、大部分のシャルドネは古いフレンチオークで一次発酵し、一部MLFを行う
– デコルジュマン:2013年11月
ヨハンさんのコメント「2007年は傑出したヴィンテージ。 冷涼で乾燥した年で、雨による病害の影響もなく、ゆっくり均一にブドウが成熟することで風味がよく発達しました。上質な酸味があり、長い年月を経た今でも十分に熟成感を楽しめます」
井黒氏コメント「熟成を感じさせる深い黄金色。泡はきめ細かく溶け込んでいます。栗、熟したりんごとメイラード反応からくる甘い香りが重なり、タルトタタンのような風味。スパイスも豊富で、ジンジャーやカルダモン、黒レモン(注:イランなどでよく使われる香辛料)などオリエンタルなエキゾチックスパイスが感じられます。泡立ちが柔らかく、味わいは繊細でまろやかで、上品。アールグレイなど紅茶の茶葉、マンダリンオレンジのような甘い風味も。何より”複雑”の一言に尽きますね。
マリアージュについては、熟成感のある香りにフォーカスするなら、お醤油やごま油など風味豊かな調味料と相性がいいと思います。海老の小籠包などは、ごま油の香ばしさがメイラード反応由来の香りとよく合うのでは。クラシックで攻めるなら、甘い栗のピューレを添えたフォワグラのポワレなど良いですね。スパークリングワインが油を流してくれる役割もあります」
- グラハム・ベック MCC キュヴェ・クライヴ 2015
– シャルドネ100%(ロバートソン70%、ダーリン30%)
– シャンパーニュ産ピエス樽(55%)&ステンレスタンク(45%)で一次発酵、5カ月間熟成。ブレンド後、瓶熟成64カ月
– デコルジュマン:2020年10月
ピーターさん「単一年のベースワインで造る、ヴィンテージの最高峰キュヴェ。2015年は素晴らしいヴィンテージでした。過去10年間では、2009年に匹敵する長期熟成タイプのワイン。ロバートソンの自社畑の二つのシャルドネの区画と、ダーリンのブドウがベースになっています」
井黒氏コメント「外観は緑色がかって若々しく、泡立ちにも力強さがあります。香りは、熟した黄桃やピーチパインなど甘い香りに、火薬やライムゼストなど還元的な硬質なトーンが印象的。
先ほどのシモンシッヒが柔らかい味わいだったのに比べ、こちらは酸の骨格がしっかりしており、芯がある味わい。長期熟成のポテンシャルを感じます。生き生きした雰囲気はあるものの、味わいに深みもあり、爽やかさとセイバリーさを兼ね備えたガストロノミックなワインです。マリアージュとしては、セップ茸のビーフフリカッセ(クリーム煮)や、ロブスターのバターレモンソースなど合いそうですし、きのこ系ともバッチリ。今の季節、松茸なんて最高ですね」
注目したいのはMCCの費用対効果。今回試飲に登場した2銘柄はいずれも南アフリカを代表する最高峰のスパークリングワインでありながら、価格は6〜7千円代。スタンダードなものなら、2000円前後で買えるキャップ・クラシックもあり、ボトルの中身に対してかなりお手頃といえるのではないでしょうか。今回のセミナーで、様々なシーンで活躍してくれるキャップ・クラシックの魅力が伝わったなら幸いです。
<Aya Mizukami>
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