産地/コースタル・リージョン

OVERVIEW

概略

1993年のWine of Origin(WO)の一部改正にともない、南アフリカワイン発祥の地、ワイン産業の中心として重要な西ケープ州を筆頭に、東ケープ州、北ケープ州、フリー・ステイト州、クワズル・ナタール州とリンポポ州という州を基準とした6つのGeographical Unitが誕生した。

Geographical Unit(州単位)

geographical-unit

Region

region

※現在、【Region】があるのは西ケープ州のみ

WINE GROWING AREA

産地詳細

西ケープ州/Western CapeのRegions(地域)

Coastal Region

コースタル・リージョンは、南アフリカで初めてワインが造られた地「州都ケープタウン」の名を持つ地区や、同国随一のブドウ栽培面積を誇るステレンボッシュ地区を擁する南アフリカワイン産業の中心産地。

アフリカ大陸最南端に位置し、大西洋を流れるベンゲラ海流とインド洋からのアガラス海流の影響を受ける海洋性気候、沿岸部を離れてやや内陸に行けば温暖な地中海性気候、丘陵地帯や起伏ある渓谷の大陸性気候、さらには標高の高い山脈の懐や麓では昼夜の気温差が大きく冷涼な高山性気候と、産地によってその表情は多彩だ。

地質学的には、大陸と大陸の衝突から生まれたケープ・フォールド・ベルト([Cape fold belt]褶曲衝上断層帯)が産地の個性に大きく影響している。基本的に、花崗岩や頁岩といった深成岩や、れき岩や砂岩などの堆積岩が中心。また産地によっては、太古の海底が押し上げられたため白亜質土壌や石灰質、クォーツなども含む土壌構成となるため、各産地でワインの特徴・個性は大きく異なる。西ケープ州のワイン産地に共通する点として、水はけはよいが、ある程度の保湿性があるので、古くからブドウ栽培が盛んに行われてきた。

赤ワイン用主要品種として有名なのは、
・カベルネ・ソーヴィニョン
・シラーズ/シラー
・ピノタージュ
・メルロー
・サンソー
など

白ワイン用主要品種として有名なのは、
・ソーヴィニヨン・ブラン
・シュナン・ブラン
・シャルドネ
・コロンバール
・セミヨン
など

Cape Town

年間平均気温: 16.4℃
年間降雨量 : 621.0mm
夏季降雨量 : 17.8mm
夏季最高気温: 22.1℃
夏季最低気温: 17.2℃
夏季日照時間: 10.0時間
※夏季の数値は12~3月の平均値 
※1999年~2019のデータ
https://en.climate-data.org/africa/south-africa/western-cape-469/

大西洋に沈む夕日とテーブルマウンテン

【世界で最も訪れたい街】に選ばれたケープタウンの名がWOとなっている。17世紀にブドウ栽培とワイン醸造が始まった南アフリカで最も歴史あるワイン産地のひとつConstantia小地区を有する地区。

コンスタンシアは18世紀から19世紀にかけてヨーロッパの王侯貴族やアメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンなど各界のセレブたちが愛し、「神聖で魅惑的な味のワイン」と称した至極の甘口ワイン (ヴァン・ド・コンスタンス [Vin de Constance])発祥の地。
※1986年にKlein Constantiaがこの伝説のワインを復活させた

自然の擁壁とも言えるテーブルマウンテンやコンスタンシアバーグ(「バーグ」とは山の意味)の懐に抱かれ、海風の恩恵を受ける冷涼気候の類まれなるワイン産地であり、伝統的にソーヴィニヨン・ブランやセミヨンの産地として名高い。

土壌は、テーブルマウンテン・サンドストーンと呼ばれる砂岩質土壌に、程よく粘土が混ざった風化した花崗岩質である。秋の終わりから晩冬が雨季、初夏から秋にかけて晴れが続きブドウはよく熟すが、冷涼気候であるため成熟がゆっくりなので、非常にエレガントな酸が特徴的となる(ケープタウン地区には、ConstantiaをはじめHout Bay、DurbanvilleとPhiladelphia小地区が存在する)。

Darling

ケープタウンから車で北に約1時間のダーリンは、大西洋の影響を受ける冷涼な海洋性気候の地区。1970年代からソーヴィニヨン・ブランの産地として徐々に名が知られるようになり、90年代にはGroenekloof小地区が注目を集める。

土壌は風化した花崗岩と、様々な要素を持つオークリーフと呼ばれる堆積土壌が主体的だが、砂が多めのローム質。冬にしっかりと降雨があり、地下水脈にも恵まれているため灌漑は不要だ。丘陵地帯の東側斜面で栽培されるブドウは熟しやすいが、西側の斜面は大西洋からの海風の影響で凛とした酸とハーブのような香りが特徴のブドウとなる。

 

Stellenbosch

年間平均気温: 16.2℃
年間降水量 : 787.0mm
夏季降雨量 : 23.3mm
夏季最高気温: 27.1℃
夏季最低気温: 15.5℃
夏季日照時間: 10.1時間
※夏季の数値は12~3月の平均値 
※1999年~2019のデータ

地形、テロワールに恵まれた産地

ステレンボッシュ地区は、1679年に誕生した南アフリカで最も古い街のひとつステレンボッシュの街を中心に広がる。ケープタウンの東側に位置し、南はフォールス湾、北はパールにまで至る比較的大きな地区で、17世紀後半からブドウ栽培とワイン醸造が行われている南アフリカを代表する産地だ。

いくつかの山々の裾野にブドウ産地が広がり、異なるマイクロクライメットが存在するため、Banghoek、Bottelary、Devon Valley、Jonkershoek Valley、Papegaaiberg、Polkadraai Hills、Simonsberg-StellenboschとVlottenburgという8の小地区が存在する上に、土壌の種類は50以上と極めて多様なテロワールに恵まれた産地である。

たとえば、歴史あるワイナリーの多くはシモンスバーグ(「バーグ」とは山の意味)の西側斜面を北端に山々の標高150~400mに点在する。高品質なカベルネ・ソーヴィニョンやシラーズを筆頭に、評価の高いピノタージュも栽培されている。異なるマイクロクライメットと土壌の違いを活かしたボルドーブレンドも盛んに造られている。

また学術機関も集中している。国内で唯一、最先端のブドウ栽培学とワイン醸造学の学位が取得できる公立の「ステレンボッシュ大学」や、ブドウ栽培に特化したエルセンバーグ農業学校(注1)がある。さらに最先端の栽培・醸造学の実践研究や、ブドウ品種・クローン・台木の研究も実践するニットフォルベイ研究所もあり、今日南アフリカワイン産業の中心地となっている。

ステレンボッシュは18世紀に確立されたケープダッチ様式の建造物が立ち並び、ブナやコナラが生い茂る【オークの街】としても有名だ。

注1:取得できる学位はブドウ栽培学となるが、カリキュラムの一環としてワイン醸造も行っている。

Franschhoek/Franschhoek Valley

年間平均気温: 14.6℃
年間降雨量 : 774.0mm
夏季降雨量 : 27.8mm
夏季最高気温: 25.7℃
夏季最低気温: 13.7℃
夏季日照時間: 9.7時間 
夏季日照時間: 9.7時間
※夏季の数値は12~3月の平均値 
※1999年~2019のデータ

Huguenot Monument in Franschhoek

ステレンボッシュの北東部に位置するシモンスバーグとヨンカースフック国立公園の間を抜けると、東南方向にフランシュック渓谷が広がる。山々に囲まれたこの地に17世紀終わりにフランスのユグノー派が入植したことから「French Corner」を意味するオランダ語のFranschhoekと名付けられた。

今もなおその文化は色濃く、フランスを彷彿とさせる街並み、洗練されたレストランが多く、南アフリカを代表する「美食の街」として国内外の美食家たちがフランシュックの地を訪れる。

平均年間降水量は774.0mmで、大半は冬の雨季に降る。冬には山々の山頂の雪化粧が美しく、春から夏にかけての雪解け水は同地区の大切な水資源にもなる(地区内の山間部では年間降水量が1,000mmを超えるところもある)。

山々の懐は起伏に富むが、なだらかな丘陵地帯や平野部もあり、所々でその土壌や微小気候は非常に多彩だ。ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネ、古木のセミヨンが同地区を代表する品種だが、カベルネ・ソーヴィニョンやメルロー、古木のシラーズも多い。

Paarl

年間平均気温: 16.5℃
年間降雨量 : 821.0mm
夏季降雨量 : 22.0mm
夏季最高気温: 28.7℃
夏季最低気温: 15.3℃
夏季日照時間: 10.5時間
※夏季の数値は12~3月の平均値 
※1999年~2019のデータ

KWVのカテドラル・セラー in Paarl

温暖な地中海性気候の恩恵を受け、数多くのブドウ品種が栽培されているパール地区は、ステレンボッシュとフランシュックの北側に位置し、その北限にはスワートランドとウエリントンに接している。東側と南側にドレケンスタイン山やヴェメールスフック山があり、その伏流水がバーグ川となり、パール地区のほぼ真ん中を縦断するよう流れる。川よりも東側では灌漑は不要だが、同地区内の他の産地は夏季から収穫期にかけて灌漑がかかせない。

歴史的にも非常に重要な街であり、1680年代にオランダ系やフランスのユグノー派移民が入植して以来、ブドウ栽培が盛んに行われてきた。1918年の設立以降、同国のワイン産業を牽引してきた「KWV(南アフリカブドウ栽培者協同組合[Ko-operatiewe Wijnbouwers Vereniging van Zuid-Afrika])」のホームタウンとしても有名。

Wellington

ウエリントンは、パールとスワートランドに隣接する。パール地区から北側に続く山脈が東側にあり、ハーヴェクワ山の裾野に広がる渓谷が織りなす微小気候を活かしたブドウ栽培が行われている。大西洋から60kmほど内陸にあるが、ハーヴェクワ山の冬の気温は海岸よりも低く、山頂に雪が積もるほどだ。

同地区は、ブドウ木の台木や接ぎ木の85%以上を国内に供給している南アフリカワイン産業の心臓部的な産地でもある。

Swartland

年間平均気温: 17.0~18.2℃
年間降雨量 : 405.0~712mm
夏季降雨量 : 3.9~35.0mm
夏季最高気温: 31.1℃
夏季最低気温: 16.1℃
夏季日照時間: 11.2時間
※夏季の数値は12~3月の平均値
※1999年~2019のデータ
※年間と夏季降雨量は、複数の観測地点のデータを採用

ブッシュ・ヴァインの古木の畑

スワートランドは総面積が西ケープ州最大の地区。Malmesbury、Paardeberg、Paardeberg South、RiebeekbergとRiebeeksrivierの5つの小地区は、小高い丘や丘陵地帯となっており、土壌の質も異なっている。たとえば、Paardebergは風化した花崗岩質土壌(約7億年前)。MalmesburyはMalmesburyシェールと名付けられた頁岩質土壌(約5億年前)。また北限のピケットバーグ(小地区の認定は受けてない)付近にいたってはテーブルマウンテン砂岩が主体となる土壌だ。

同地区にはブッシュ・ヴァイン(株仕立て)が多く、オールド・ヴァイン・プロジェクト(注2)で一躍脚光を浴びた樹齢35年以上のブドウ木の畑が数多く存在する。

さらに、南アフリカを代表する醸造家であるイーベン・サディが、この地でワインを造り始めると、スワートランドの名が瞬く間に世界に伝播した。「その土地の真の個性を表現したスワートランドのワイン造り」という信条をもとに、有志数名によって『スワートランド・インディペンデント・プロデューサーズ』が結成され、現在もなお国内外から注目を集めている。

注2:オールド・ヴァイン・プロジェクト(Old Vine Project)。2002年から、ロサ・クルーガーによって続けられている樹齢35年以上のブドウの古木を保護する活動。

Tulbagh

年間平均気温: 17.3℃
年間降雨量 : 582.0mm
夏季降雨量 : 17.5mm
夏季最高気温: 30.4℃
夏季最低気温: 15.9℃
夏季日照時間: 11.1時間
※夏季の数値は12~3月の平均値
※1999年~2019のデータ

この地区は、標高約150mのトゥルバッハ盆地を中心にグルート・ヴィンテールフック、ヴァーターヴァル自然保護区とヴィットバーグ国立公園に3方を囲まれたリンゴやアプリコット、ブルーベリーなどの果樹園や穀物、そしてブドウの産地。

雪深い山々に囲まれたトゥルバッハ

太古の昔は湖であったため、盆地は粘土を多く含んだ砕屑性の砂質土壌や、砂利と風化したテーブルマウンテン砂岩を主とした土壌など多彩だ。さらに山々の標高や傾斜、日照量と降雨量が各地で異なるため、非常に多くのメソ気候が存在する。トゥルバッハで特筆すべきは、山々に囲まれた盆地であることから夜冷却された空気が地区全域にたまる「コールド・トラップ」と呼ばれる現象だ。その効果は日が昇ってからも続くため、ブドウの過熟を防いでくれる。

現在ワイナリーは12軒(ワイナリーやブドウ園を含む)と数は少ないが、テクノロジーを用いた水管理や、最先端のブドウ栽培技術の実践などから、この地区の真の価値が認識され始めた。非常に高品質なシラーやMCC(メトード・キャップ・クラシック[伝統的製法のスパークリングワイン])が有名だ。白品種では、シュナン・ブランが多く栽培されているが、近年ではシャルドネが非常に増えている。赤はピノタージュが多く、その品質も好評であると同時に、ローヌ系品種のシラーやムールヴェードルも高い評価を得ている。

Lutzville Valley

ルツヴィル・ヴァレーは、大西洋に面したコースタル・リージョン最北端の地区で、冷涼な海洋性気候であることからブドウが非常にゆっくりと成熟する。その中でもKoekenaap小地区はこの影響が顕著で、高品質なブドウの産地として近年非常に注目を集めている。

ここまで紹介してきた産地の他に、地域や地区に属さない独自小地区であるBamboes BayやLamberts Bayもルツヴィル・ヴァレー地区同様に冷涼な海洋性の恩恵を受け、高品質なソーヴィニヨン・ブランや冷涼なシュナン・ブランの産地として知られている。