WOSA Japan
南アフリカワイン
ベンチマーク テイスティング
セミナー レポート
Written by Tatsuya ASAKURA
2021年10月19日都内麻布にあるPalazzo Ducale Azabuにて、南アフリカワイン協会(以下WOSA Japan)主催によるイベント【DISCOVER SOUTH AFRICA TOKYO 2021】が開催された。
COVID-19の影響を受け昨年は延期を余儀なくされた同イベント、実に2年振りの開催である。
徹底された感染防止対策がなされた中で行われた今回は、業界関係者のみを対象にしたイベントであったが、受付時から既に抽選待ちという状況で、いかにワイン業界関係者が南アフリカワインに対して関心を持っているかという事が伺えた。
メイン会場はインポーター14社が出展する試飲商談会が行われ、別室ではSouth Africa Wine Benchmark Tasting、Celebrating 50 years of Cap Classiqueと題したふたつのマスタークラスセミナーが開催された。
そのうちの一つ、2020年全日本最優秀ソムリエの井黒卓氏によるナビゲートのもと行われた
South Africa Wine Benchmark Tastingの模様をレポートする。
セミナーは南アフリカワインについての基本知識の説明と共にスタートした。
1973年にWine of Origin(以下W.O.)と呼ばれる原産地呼称が制定されたことや、
多種多様なワインを生産する要因にもなるベンゲラ海流やケープ・ドクターと呼ばれる乾燥した季節風のこと、世界最古と言われる土壌の説明やユネスコ世界自然遺産に指定された植物自然保護区についての説明の後に、ブドウ品種別栽培面積の過去10年間の推移が表示された。
ご覧の通り特に大きな移り変わりはなく、白ブドウ黒ブドウ共に上位4品種は
紛れもなく同国を代表する品種だと言える。
テイスティングパートは全てブラインドによって行われた。
目的は品種を当てることではなく、多種多様な南アフリカのワインのスタイルを
それぞれが感じ、考えることでより深い理解を得るというのが狙いだそうだ。
今回はBenchmark=基準と題したセッションのため、南アフリカを代表するブドウ品種の
気候や醸造、栽培エリアにおけるスタイルの違いを4つのフライトを通して学んでゆく。
- FLIGHT NO1. SYRAH vs SHIRAZ
KWV Cathedral Cellar / Western Cape Shiraz 2018
1918年に協同組合として設立。
現在では株式会社化され約4,500軒の栽培農家が株主となっている。
ウエスタン・ケープ州内に点在する様々な畑から選りすぐったブドウから造るマルチリージョナルブレンドのシラーズ。
このワインは、19%Paarl, 18%Coastal, 18% Wellington, 15.5% Stellenbosch, 14% Western Cape, 9% Robertson, 6% Darling, 0.5% Swartlandのブレンドから成る。
14.29%のアルコール度数から分かる通り、とても凝縮度の高いワインでありながらも、
95%フレンチオーク、5%アメリカンオークで18ヶ月間の熟成をさせており洗練されたスタイルも併せ持つワイン。
井黒氏曰く、「KWVのワインはクオリティに対しての価格のパフォーマンスが圧倒的」
Keermont Vineyards / Steepside Syrah 2015
ステレンボッシュ内にある現在注目されている小地区(非公式)のひとつ、へルダーバーグに位置するワイナリー。
同エリアはフォールス湾からの影響を受ける冷涼な産地である。
300mと比較的高い標高に位置し、赤い粘土質のローム土壌と花崗岩土壌が混在する。
3〜4週間の比較的長い発酵、抽出は優しくパンチダウンを行う。
225Lと500Lのフレンチオークで20カ月間熟成させるブルゴーニュ的なアプローチ。
井黒氏曰く、「KWVのワインと比べるとアルコール度数は高いが、果実を抑制するような綺麗な酸味が引き締める要素にあるので、重くなりすぎないような印象のワイン」とのこと。
現在南アフリカではシラーズとシラーは両方の呼び名が使われている。
これはワインのスタイルを分類化するためのワイナリーのイメージ戦略の一つのようで、
ニューワールド的なフルボディのスタイルを強調したい伝統的な生産者はシラーズを名乗り、
繊細で現代的な表現をしたい生産者はシラーと呼んでいる傾向にあるという。
側から見れば同じ国の同じブドウ品種であるのに、これだけスタイルの異なるワインが生産できるのは、この南アフリカの気候風土に加え、様々な人種がクロスオーヴァーしたこの国ならではの多様性により産み出されるワインそのものに反映されてるとも言える。
- FLIGHT NO2. COOL CLIMATE vs WARM CLIMAT
Boschendal Wine Estate / Elgin Chardonnay 2018
設立300年以上の老舗ワイナリー。伝統的製法のスパークリングワインCap Classiqueの生産でも有名。
ボッケフェルト・シェールと呼ばれる水捌けの良い頁岩と粘土の含有量が高い土壌が広がる畑、無灌漑でブドウ栽培を行なっている。
エルギン地区は7,000haの耕作農地のうち6,000haがりんごや梨などの栽培で有名な産地である。海から入ってくる雲により降雨量が多く(年間約1,000mm)、冷涼な産地として注目を浴びている。そのため、以前はスパークリングワイン用のブドウを植えるのが一般的であったが、現在は気候変動によりスティルワイン用のシャルドネやピノ・ノワールも熟すようになっている。
また、このワインはパーシャル・マロラクティック発酵を行っているのが特徴である。
パーシャル・マロラクティック発酵はマロラクティック発酵を行なっている樽と行なっていない樽をブレンドする方法で、リンゴ酸のニュアンスも残しながらマロラクティック発酵由来のテクスチャーを与えるというもの。
井黒氏コメント「溌剌と伸びやかな酸味を保ちながらも、白桃やアプリコットなどの核系フルーツ、新樽によるクリーミーさやトーストなどの甘い香りが加わり、上質な味わいのシャルドネの印象。」
Meerlust Estate / Stellenbosch Chardonnay 2019
エステート内のフォールス湾を向いた南向きの4つの畑のブレンド。
異なる土壌のブドウをブレンドすることにより、味わいに厚みを持たせている。
300Lのアリエ産オークで発酵、100%マロラクティック発酵を行なっている。
井黒氏は、「よりメロウで、口中いっぱいに広がるテクスチャーがあり、新樽由来のヴァニラ、シナモンの香りが豊か、前者に比べると親しみやすい味わいなのでは」と、コメント。
2019年ヴィンテージは2016年から続いた旱魃が終わりを迎えた年と言われており、
テンションの効いた品質のワインが多い、期待されたヴィンテージとなっている。
ふたつめのフライトは共にシャルドネで、生産エリアの気候の違いからもたらされる
違いを感じ取る、というものだった。
井黒氏曰く、「シャルドネはワインメイキングによる影響がすごく大きく、酸だけで見ると冷涼か温暖かは分かりにくい。そこでマロラクティック発酵の割合によるテクスチャーがヒントとなる。」とのこと。
テイスティングした直後では、会場の聴衆のほとんどは後者が冷涼でなおかつ好みの味わいだという意見が多かったのだが、実際のところはエルギンが冷涼でステレンボッシュの方が温暖という結果。シャルドネという品種の懐の深さを改めて感じる機会となった。
- FLIGHT NO3. DIFFERENCE OF WARD
Stark-Condé / Cabernet Sauvignon 2017
ヨンカースフックヴァレーに位置する1998年設立のワイナリー。
当初は6樽からの生産であった。
Cabernet Sauvignon 85%, Petit Verdot 8%, Petit Sirah 4%,
Malbec 2%, Cabernet Franc 1%のブレンド。
300Lのフレンチオークで20ヶ月の熟成。
井黒氏コメント「カベルネ・ソーヴィニヨン由来のシダやピラジン、瑞々しいブルーベリーの清涼感、樽によるシナモンやリコリスの香り。
味わいもタイトに引き締まりコンパクトにまとまった酸と、ブレンドによるマルチレイヤードなフィニッシュ、きめ細かいダスティなタンニンが特徴的。」
この品質で3,050円とは驚きの品質であり、南アフリカワインの品質とクオリティに対しての
ヴァリューの高さを感じたワインであった。
Reyneke Wines / Reserve Cabernet Sauvignon 2017
ポルカドラーイヒルズに位置する1998年設立のワイナリー。
現在は同国を代表するワイナリーのひとつとされている。栽培はビオディナミ。
エステートの南東向きのブロックからのパーフェクトなブドウのみのセレクションで
2017年ヴィンテージは6樽のみのバレル・セレクション。
225Lのフレンチオークで24ヶ月熟成。
井黒氏コメント「発散力の高いトップノーズ、カシスやブラックチェリーの黒系フルーツの香り、カベルネ由来のグラファイト(黒鉛)の香りとフルーツの凝縮度の高さが印象的。」
3番目のフライトはカベルネ・ソーヴィニヨンで異なるward(小地区)で生産されたワインである。
ボルドー品種は南アフリカでは多く植えられいるが、一般的にはステレンボッシュが最も有名である。ステレンボッシュがボルドー品種に向く所以として、
①高い標高による寒暖差
②水捌けの良い土壌
以上の2点が挙げられる。
今回のフライトのワイナリーが位置するのは共にスレテンボッシュだが、このエリア内であっても山や湾との距離、畑の向きによって微妙に気候も変わるので、もちろん生産されるワインのスタイルも変化する。
特に前者のワイナリーが位置するヨンカースフックヴァレーは雲の通り道にあたる渓谷にあるため雨が多く、旱魃になりにくい。
こういった同じエリアであってもward(小地区)によって微妙な気候の違いがあるのも
南アフリカワインを知る上で欠かせない要素の一つであろう。
- FLIGHT NO4. STELLENBOSCH vs SWARTLAND
Ken Forrester Vineyards / Old Vine Reserve Chenin Blanc 2019
「ミスター・シュナン・ブラン」と呼ばれるケン・フォレスター氏率いる、1689年にブドウが植えられた歴史を有するエステート。
非公式だが非常に認知度の高いヘルダーバーク地区に位置し、同ワインは1974年植樹の
オールド・ヴァインから造られる。無灌漑で南南西向きの畑。
フレンチオークで9カ月間の熟成。
果実のボリュームが豊かな同国を代表するシュナン・ブラン。
Alheit Vineyards / Broom Ridge Chenin Blanc 2019
スワートランドの最南端、パールダバーグ小地区に位置する単一畑産。
ワインメーカーのクリス・アルヘイトは若手が台頭する中でもトップ生産者の筆頭に挙げられる。
発酵樽のままシュールリーにて12ヶ月熟成したのち、さらにタンクにて澱と共に6ヶ月熟成をさせる。新樽は不使用。生産本数は5,251本と世界中のソムリエが探し求める南アフリカワインのひとつ。
井黒氏によると「フルーツ以外の要素が多く感じられるが、これはドライファーミング(無灌漑)によるもの、ドライファーミングは土壌由来の影響が大きい。」
スワートランドは「黒い土地」という意味でレノステルボスと呼ばれる菊の仲間に由来する。
この植物は年に数回黒く変色し、スワートランドの土地を真っ黒に染めていたとのこと。
同地域は大変乾燥しており(年間降雨量300-500mm)、そのためブドウ樹は少ない水分量で生育できるブッシュ・ヴァインに仕立てられることが多い。
最後のフライトは同国を代表する品種、シュナン・ブランのトップ生産者の比較となった。
果実と新樽にてボリュームを与えるスタイルと、樽を使わずにシュールリーをしてボディに厚みを持たせるスタイルという、異なる醸造アプローチではあったが、共通点は無灌漑であること。灌漑を行わない栽培によってテロワールの表現がより顕著に感じられるということを感じたフライトであった。
最後に、井黒氏よりふたつの注目すべきトピックが紹介された。
ひとつめはCHVシールについて。
現在南アフリカではCHV(Certified Heritage Vineyards)シールという制度が取り入れられており、これは「Old Vine Project」が認証する伝統的な畑に与えられるもので、植樹年が記載される。最古の畑は1900年植樹のオールド・ヴァインである。
「Old Vine Project」の公式ホームページより検索をすることが可能で、生まれ年に植樹されたワインを探すという面白い試みも可能である。
南アフリカのワイン産業におけるサスティナビリティの強い意志を感じる試みだ。
ふたつめはケープ・ホワイト・ブレンドについて。
これは南アフリカ独自のブレンドワインで、シュナン・ブランを主体に様々な品種をブレンドしたもの。オールド・ヴァインのブドウが使用されることも多い。
ワインメーカーのセンスが問われるクリエイティヴなワインであり、新しいジャンルのひとつとして現在注目を浴びている。
是非ホットなトピックとして、皆様のお店のラインナップのひとつに加えてみてはいかがだろうか?
1時間半という短い時間ではあったが、非常に密度の濃いセッションとなった。
今回は敢えて様々な産地を網羅するわけでなく、特定のエリアにフォーカスする事により
それぞれの地域をより深く知れたように思えた。
井黒氏曰く、「全ての産地ごとにストーリーがある。」と言われる南アフリカワイン。
今後ますます目が離せない産地になりそうだ。
私自身、このレポートを執筆できてとても学ぶことが多くあった。
この場をお借りして、関係者各位に深く感謝を述べたい。
*マスタークラスの動画はWOSA Japan公式Facebook Pageにてアーカイブ視聴が可能です。https://www.facebook.com/WOSAJP/videos/612685609857847