「Pinotage誕生100周年記念セミナー」レポート

ピノタージュ誕生から100年。
南アフリカが誇る固有品種は、いまや多様なスタイルを開花させています。

生誕100周年を記念して、先日はWOSA Japan主催オンラインセミナー@ヴィノテラスワインスクールを開催。
講師はおなじみWOSA Japanプロジェクトマネジャー高橋佳子氏、ゲストテイスターにマンダリンオリエンタル東京ディレクターオブワイン(全日本最優秀ソムリエ)の野坂昭彦氏を迎えました。

二人は、今年9月、CapeWine 2025(400以上の生産者が一堂に会する3年に1度のビッグイベント)に合わせて南アフリカを訪問したばかり。

「行くたびに新しい発見があり、進歩が目まぐるしい産地」と語るのは、すでに南アフリカ訪問歴6回の高橋氏。野坂氏も、「ワイン造りの環境・テロワールが圧倒的に有利。若い造り手も活躍しており、今後の可能性が期待できる」と初訪問を振り返りました。

■ピノタージュの歩み

ピノタージュは、南アフリカ生まれの黒ブドウ品種。
1925年、ステレンボッシュ大学のアブラハム・ペロード教授がピノ・ノワールとサンソー(当時の名は「エルミタージュ」)を交配し、誕生しました。

「ピノタージュの父」と呼ばれるペロード教授の名は、南アフリカワイン好きの皆さまなら聞き覚えがあるかと思います。実はもう一人、ピノタージュを語るのに欠かせない重要人物が、同僚のセロン教授。
ピノタージュの苗を大学の庭に植えたのは良いものの、結実を待たずにKWVに移ってしまったペロード教授に変わり、苗を救い出し栽培に成功させたのは、セロン教授だったのです。

その後時代は下って1961年、ランゼラック(Lanzerac)が初めて品種名をラベルに記載し、商業的にワインをリリース。ピノタージュワインの歴史が本格的に動き出します。

近年、南アフリカ全体のブドウ畑は過去10年間で約13%減少していますが、ピノタージュは数少ない増加傾向の品種。赤ワイン品種では第3位、全体では第6位の栽培面積を誇り、非常に重要な位置づけです。

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さて今回のテイスティングは6種類。
まさしくピノタージュの多様性を表すラインナップでした。

1. KWV Cathedral Cellar Pinotage 2020(Western Cape)
輸入元:国分グループ本社(株)
参考上代:2,600円(税抜)
野坂氏コメント:南アフリカを代表する大手ワイナリーKWVによるクラシックスタイル。
エッジにオレンジを帯びたガーネット、ダークチェリーレッド。ブラックチェリー、ブラックベリー、萎れた花、リコリス、シナモン、オールスパイスなどのスイートスパイス、動物系、レザー、カカオ、コーヒー、ロースト香など層をなして広がる。熟成感がありながら果実の力強さも健在で、タンニンはなめらか。火を入れた果実のニュアンスと甘苦いスパイスが調和し、余韻は長く、非常に完成度の高い1本。テキストブックのようなピノタージュ。チャーシューやBBQポークに合わせたい。

2. Lievland Vineyards Bushvine Pinotage 2022(Paarl)
輸入元:(株)モトックス
参考上代:2,750円(税抜)
野坂氏コメント:明るいラズベリーレッド。香りはチャーミングな印象で、ラズベリーやストロベリー、ざくろなど赤系果実が主体。ピオニー(シャクヤク)やチューリップの花、クローヴやナツメグ、わずかに石灰の鉱物感も感じられる。味わいは軽快で柔らかく、ジューシーな果実味が広がる。酸はエレガントで、タンニンは細やか。温度低めでも楽しめ、フレッシュで親しみやすい。
高橋氏:親品種のピノ・ノワールを思わせるエレガントさがあり、バランスが良い。クラシックなKWVに対して、こちらはモダンなスタイル。

3. Reign of Terroir Pinotage 2023 by GABB Family(Swartland)
輸入元:Season Wine
参考上代:2,300円(税抜)
野坂氏コメント:明るく若々しいラズベリーレッド。ラズベリーや赤プラム、チェリーのチャーミングな香りに、乾燥したオレガノ、レッドペッパーのニュアンス。鉱物的なミネラル感もあり、リバーベッド(川床)を思わせる印象。味わいは軽快で生き生きとしており、エアリーで飲み心地のよいスタイル。快活な酸がバランスを整え、全体に若々しいエネルギーがある。テラスで冷やしてシャルキュトリーと楽しむなど、カジュアルに楽しんでほしいワイン。
高橋氏:飲み心地が良く、若い世代にもおすすめ。誰にでも勧めたくなる普遍的な美味しさがある。外で飲みたいワイン。

4. Longridge Pinotage 2022(Stellenbosch)
輸入元:(株)マスダ
参考上代:3,700円(税抜)
野坂氏コメント:オーガニック&バイオダイナミックの先駆者、ロングリッジによる1本。
香りはフィンボスのニュアンスが特徴的で、ヒース、ハイビスカス、ルイボス、赤いチェリーやクランベリーが重なる。味わいはふくよかでジューシー、なめらかで充実感あり。しっかりとした酸が全体を引き締め、繊細なタンニンが上品に残る。ラムチョップやポークチョップなど、脂を感じる料理と好相性。
高橋氏:シリアスで、ガストロノミックなシーンにも合う個性的なワイン。

5. Cage Wine Mirage 2023(Swartland)
輸入元:(株)Cage Wine
参考上代:10,000円(税抜)
野坂氏コメント:赤と青の果実が混在する複雑な香り。ラズベリー、ブルーベリー、ローズヒップ、クローヴ、ナツメグなど、空気に触れるごとに香りが開き、レイヤー感のある印象。味わいは滑らかで緊張感があり、若々しい酸とグリップのあるタンニンが骨格を形成。立体感のあるストラクチャーがあり、熟成によってより魅力を増しそう。ピュアで洗練された果実味があり、和食との親和性も良さそう。
高橋氏:飲むシーンやグラスで表情が変わりそうな印象。香りもすごく開いていて、ローズヒップ系の華やかないい香り!しっかりグリップもあり良いワイン。

6. FRAM Pinotage 2017(Citrusdal Mountain)
輸入元:(株)Raffine
参考上代:5,000円(税抜)
野坂氏:熟成を経たエレガントなスタイル。オレンジを帯びたラズベリーレッドのグラデーション。
熟した赤いプラムやボイセンベリー、ドライフラワー、クローヴ、オールスパイス、動物、グラファイトなど複層的な香りが広がる。味わいはしなやかで、酸とタンニンの調和が見事。中盤の活力ある酸が印象的で、余韻は長く旨味が続く。シームレスで目の詰まった良いワイン。
高橋氏:価格以上のクオリティの、ストーリーのあるワイン。生産者はシリアスに見えて実はファンキーな人物。若いヴィンテージも素晴らしい。

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高橋氏によると、「焚き火とピノタージュは相性が良い。焚火の前で飲みたいワイン」だそう。たしかに、スモーキーなスタイルのピノタージュは、キャンプシーンにぴったり合いそう!

ピノタージュは、かつては批評家から酷評された時代もありましたが、栽培・醸造技術の向上とともに品質も飛躍的に上がりました。今回の試飲は赤ワインのみでしたが、スパークリングワインや白(!)、ロゼなどさまざまなスタイルを試せるのも楽しいポイント♪
これを機に、皆さんもピノタージュのワイン飲んでみてください!

(Aya Mizukami)